オランピアソワレ 璃空ルートの感想

異世界の中に神話と日本の歴史が入り混じる壮大な世界観。共通ルートは聞き慣れない単語や複雑な階級制度を覚えるのに苦労しました。ここまで単語を確認したゲームは初めてかもしれません。 

日本神話や日本史が好きなので、聴き慣れた偉人の名前が想起されるのは非常にワクワクしました。さとい氏の万人受けするイラストと美しい背景がとにかく眼福。和風のBGMも好ましいです。 

しかし、トキメキ世界観で繰り広げられるのは、「人種差別」や「男尊女卑」など現実的で陰鬱な問題なので、世界観と合わななくてちぐはぐに感じます。材料はいいのにシナリオがうまく料理できてないというか。

また、センシティブな問題を取り沙汰するのは構わないんですけど、それに対する誠実な答えを提示せず、二人が幸せならオールオッケーの結末にはモヤモヤしました。

 

作品の売りである「交配」(性行為)は、オランピアの使命で想いを通じ合わせる手段ですが、どうしても全てを描ききれないので、コンシューマーとしての限界があります。 恋愛描写を性行為で済ませているように感じるから個人的には微妙なところ。勿論、オラソワが交配に重きを置いているのは理解していますが、その設定なら18禁でやるべきだと思いました。

 

 

 

璃空ルートの感想です。

次期「青」の長。実直で格式を重んじる武人。魂を弔う「拔」の使い手。 璃空ルートのテーマは「価値観の転換」、「アイデンティティの再構成」、「純血主義の弊害」ですかね。 

色紋による階級制度の体現者のように見える存在ですが、実はハズシの子なために、人一倍階級制度に雁字搦めになっている人でした。 

 

彼は、本当は存在してはいけない人間だったからこそ、最もこの社会の適合者にならないといけない強迫観念に支配されています。適合者として青の長として、また、自分を育ててくれた者たちのため、規範とならなければならない、とずっとこのスタイルを貫いています。いつかパンクしそうと心配になるほど真面目で実直な青年ですよね。 

そんな璃空が恋惹かれてしまったのが、唯一交配相手を自由に選ぶことを許されていて、同じ上位階級者ではあるものの生き方が彼とは対局な女性のオランピア。 

当初、璃空がオランピアに批判的だったのは、自分の形成してきたものの崩壊を恐れていたからなんですよね。だから、許されるべきでない自分の側面を肯定されると拒絶する。

理を遵守しなければ、自分の存在意義を意義できない彼は、何かと変革しようとするオランピアの行動を諌めます。 

ですが、オランピアの否定は自分自身の否定になります。 

彼がオランピアに放った暴言(白の女は不吉で厭らしい)は、ブーメランとして自分自身に刺さっていたでしょう。

 

彼が変わるキッカケとなったのが、愛する女性オランピアが賊に襲われかけたことにより、我を失い「拔」(魂の抜き取り)を行使しかけたこと。禁忌を犯したことによりいろいろ吹っ切れたのか、突如黄泉下りを決意。そこで自分の生まれ場所の真実に触れ、価値観が転換します。ちょっとこの吹っ切れる時間軸が、オランピア昏睡中なので解りづらい。。。 あと、オランピアにも指摘されている通り、璃空は肝心のことは彼女だけには話さないので若干置いてけばおりになりました。 

 

交配シーンは煮えきらない璃空に対して、痺れを切らしたオランピアが襲ってしまう、ヒロイン攻め展開。長髪で中性的な顔立ちをした璃空顔真っ赤にして、押し倒されている様子は百合と錯覚しちゃう。他の攻略キャラは余裕がありそうな男性たちなので、オランピアに良いようにされて狼狽る璃空は新鮮味のあるかな。可愛かった可愛いかった。 

 

個人的には彼のルートは恋愛面での盛り上がりはなかったです。二人が惹かれ合うことの 説明(璃空:真面目で優しい。だいふくに対する優しさへのギャップ。素晴らしい舞い手。オランピア:美しく可愛い。自分と似て非なるものへの憧憬)はできるのですが、ドラマチックに想いを自覚するシーンがなかったかな。。。 これは私がクール系が好みじゃないからですね。童貞拗らせ系(蛟)とか、不便タイプ(トモセ)の堅物は好きですけど、可愛いタイプの堅物はう〜〜〜ん。 

まあ、一途に想ってくれるし地位も名誉もあるので、旦那としては完璧ですよね。 

 

 

 

珠藍大姉と叉梗について 

さて、個別ルートには、2人の乗り越えるべき障害を象徴する傍流の物語があります。 

傍流物語の主役が青の現当主の珠藍大姉と青紫の医者の叉梗。

オランピアと璃空の間に降りかかった問題は、璃空は30歳まで潔斎を貫くこと、青の長は青の女性を娶らなければならないという因習です。 その克服に立ちはだかるのが、璃空にガチガチの価値観を植え付けた珠藍大姉と叉梗。ですが、この2人は天供島を支配する階級社会・男尊女卑と「青」の因習の被害者でもあります。 

珠藍大姉は、女性であるが故に無知蒙昧を強いられ、想いを寄せる相手と結ばれることは許されない。だから、同じ特権階級の女性でありながら、ある程度知恵を得ることが許され、自由に結婚相手を選べるオランピアが疎ましかったんだと思います。 

ですが、大姉は逆境の中でも運命を受けいれ、青を守りきった強く賢き女性です。 

おそらく、子を産めなかったので務めを果たせなかったことに周りから容赦ない扱いを受けたのではないでしょうか。それでも彼女は当主の妻として、青を守り、璃空を立派な男児に育てあげた。 

また、男尊女卑社会に完全染まるでもなく、女性のための学校を作るなど彼女なりに現状を変える努力もしているので非常に好ましかったです。だからこそ、(ある程度の偏見には晒されてても)周囲に特別扱いされ、自由奔放に生きる小娘に自分の築き上げたものを批判されるのは許せなかった。そりゃ完膚なきまでに叩きのめしたくなりますよね……。自分の立場に甘んじ直訴するだけのオランピアじゃ大姉と対抗するのは分が悪すぎる。 

大姉が、「知恵を得ると孕めなくなるんですって…」(うろ覚え)って言ったのは、彼女自身がそう言われたのか、孕めなかったのは怜悧だったせいと自分を責めたのかと考えると、やるせない気持ちになりました。これについて語られるシーンがあるわけではないので、完全に私の邪推です。

 

叉梗は混ざった青紫に生まれ堕ちてしまったために純血種な青に固執しています。更に島を蝕む病「剥」み蝕まれたことは己の劣等感を増幅させたのでしょう。 

正統な両親から混じった自分が生まれて、ハズシから璃空が生まれたことの皮肉的な因果を呪い璃空への執着を強めたのもよく分かります。

 で、叉梗が執拗にオランピアと璃空との仲を否定したのは、璃空の指導者としての義務感からくるものもあるけど、彼だけ幸せを得るのが許せなかったんじゃないんでしょうか。

自分が欲しいものを持っている上に、好きな女と添い遂げるなんて、どちらも得られなかった叉梗を余計に哀れなものにしてしまう。 自分も苦痛を味わったのだから他のみんなも平等に苦しんで欲しい。 そうじゃないと不公平だ、と。 両者ともに2人の仲を否定するのは、過去の自分たちが受けてきた無慈悲な現実への復讐だったのかもしれません。